大判例

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東京家庭裁判所 昭和45年(家)13784号・昭45年(家)13783号 審判

〔主文〕申立人らの氏「米山」を父の氏である「広田」に変更することを許可する。

〔理由〕本件申立の要旨は、申立人らは父広田正夫と母米山茂子との間に生れた婚外子であるが、いずれも生後間もなく父の認知を受け、また昭和四五年二月一一日には協議により親権者を父広田正夫と定める旨の戸籍届出がされ、さらに、申立人らは現在父と同居し、父の氏を称して生活している上、申立人正一は来春幼稚園に入園する予定であるので、この際戸籍上においても父の氏を称したく、本申立に及んだというにある。

よつて審案するに、<証拠略>によれば、申立人らの述べる事実はすべて認められるほか、上記広田正夫とその妻康代は昭和三五年二月一日に婚姻届出をしたが、二人の間には子がないこと、広田正夫は昭和四二年一〇月頃上記康代方を出て米山茂子と同棲するようになり、以後康代方にほとんど出入していないこと、広田正夫は会社に勤務し、月額平均手取額一二万円余(賞与を含む)の収入を得、また康代は公団住宅に単身居住し、以前は編物の内職をしていたが、健康を害してからは無職無収入となり、そのため正夫を相手方として当裁判所に二回にわたり婚姻費用分担の調停申立をしたが、いずれも不調のため審判となり、最終的には、昭和四六年四月三〇日の審判により、月額金二万円および賞与時に各二万円を支払うべき旨定められたこと、しかし正夫は右金員を従来は自発的に支払わなかつたため、康代は給料差押の執行をなしていること、このため康代は申立人らの母親に対して強い敵意感情をもち、本件子の氏変更の申立に対しても、絶対に承諾はできない旨強く表明していることの各事実を認めることができる。

以上の事実関係について勘案すれば、本件子の氏変更の申立は、正妻の強い反対感情がある以上、軽々しく認容すべきでないことは明らかである。しかしながら、正妻である康代の反対感情は、要するに正妻の立場を無視されたという感情的な問題だけであつて、本件子の氏変更の申立を許可することによつて受ける法律上および社会生活上の不利益はほとんど皆無というべきである。すなわち、康代の現在の状態から見て戸籍を取寄せる必要のあるのは、家庭裁判所に何らかの申立をする場合を除いてはほとんどなく、仮にあつたとしても、夫である正夫の身分事項欄にはすでに認知届出の事項が記載されているのであるから、それに非嫡の子の記載がなされてもそれほど差異があるわけではなく、また嫡出子がいないのであるから、その入学、縁談等に支障を来すということもないからである。

これに反して、申立人らは現に父親と同居しているのであるから、申立人らが父の氏を称することは、その社会生活上利益を有することは明らかであり、またその心身の健全な発育のためにも極めて大切なことというべきである。もつとも、申立人らはその母親とも同居しているのであるから、母の氏を称する利益をも有しているのであるが、本件の場合には、申立人らは専ら父親の収入のみによつて生活しているのであり、父の勤務する会社の関係においては扶養家族としての認定を受け、また健康保険証にも記載されているのであるから、父の氏を称する利益の方が大きいというべきであろう。

なお、康代は、もしこれが許されるならば、家庭裁判所は結果的には夫の不貞に応援したことになる旨述べるが、生れ出た子に罪はなく、その子らは、父の不貞ということによつて、すでに嫡出子という身分取得が否定せられている不幸な境遇におかれているのであるから、その上更に、父の氏を称する道をも完全に封じてしまうことはあまりにも酷というべきであろう。家庭裁判所は、児童、少年の問題をも取扱つているが、少年法第一条には、「少年の健全な育成を期する」ことをその目的として掲げ、また児童福祉法第一条には、「すべて国民は、児童が心身ともに健やかに生まれ、且つ、育成されるよう努めなければならない。すべて児童は、ひとしくその生活を保障され、愛護されなければならない。」と明規している趣旨を、家庭裁判所は尊重する必要があるのである。家庭裁判所が本件子の氏変更の申立を許容したからといつて、正妻の立場を全く無視しているわけではなく、正妻の立場を尊重しつつ、なおかつ、子の福祉の方が本件の場合には優先するとの観点に立つものである。従つて、正妻の立場については、婚姻費用の分担等の面において、十分保護する必要があるものと解する。

以上の理由により、本件申立を認容することとし、主文のとおり審判する。

(日野原昌)

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